インタビュー

雑貨作家/イラストレーター・ポンチセさん「日常の中で、そっと背中を押せるような作品を」

花や草木、果物や動物など、自然の中にあるものを透明水彩の精細なタッチで描くポンチセさん。「minneハンドメイドアワード2018」でトンボ鉛筆賞、2020年には実店舗をオープンされるなど、名実ともに人気のある作家さんのひとりです。今回は自宅のある京都・北山を訪れ、作家活動を行うきっかけや作品づくりのこだわり、モチーフの選び方などについてたっぷりとおうかがいしました。

ポンチセ(今井有美)
花や草木、野菜などの植物や身近にいる小さな動物をモチーフにシンプルな雑貨を企画・制作。
https://minne.com/@ponchise

自然豊かなこの街で


わたしたちが訪れたのは、紅葉を待ち侘びる秋の京都・北山。豊かな自然とモダンな街並みが共存するこの街に、雑貨作家、そしてイラストレーターとしても活躍されるポンチセさんのご自宅兼、作業場があります。ドアを開けて出迎えてくれたのは、明るく朗らかな表情が印象的なひとりの女性、今井有美さん。「ポンチセ」の作品の生みの親です。

北山の駅を出てすぐに、この街の上品な雰囲気と恵まれた自然に驚きました。

ポンチセ
そうなんです。観光地として知られている京都とはまたすこし雰囲気が違いますよね。すぐ近くに比叡山があったり、駅前には植物園があったりと街全体が自然に囲まれているんです。建物もどこかバブル期の名残りがあって、懐かしい感じも気に入っています。

ポンチセさんの作品には花や草木などをモチーフにしたものが多くありますが、この街の植物をモチーフにされているんですか。

ポンチセ
植物園にはよく行きますし、この街の自然に影響を受けている部分ももちろんありますが、実際に描くモチーフは、もうすこし馴染みのある、どこにでもあるような植物を描くことの方が多いかもしれません。

当日のインタビューでは、お話をうかがいながら同時進行でイラストの制作もしていただきました。

たしかに、ポンチセさんの作品には「野ぶどう」や「シロツメクサ」など、どこか親近感のわく植物が多く登場していますね。

ポンチセ
馴染みのあるものがいいなと思っていて、だから薔薇やチューリップといった華やかな花よりも、近くの公園に咲いているような誰もが見たことのあるものを描くようにしています。わたしの知っている野ぶどうがみんなの知っている野ぶどうであってほしい、という気持ちがすごくあって、なので作品のレビューで「懐かしい感じがします」と書いてもらえたときは嬉しかったですね。

ポンチセさんの描く「野ぶどう」のポストカード

絵から離れた数年間


絵はいつ頃から描き始めたんですか?

ポンチセ
絵は小さい頃から好きで、美大に進んでからは日本画を専攻して本格的に絵を学びました。でも卒業してからは、広告の制作会社に入って、全く絵を描かない生活をしていたんです。

日本画!?そうだったんですね。卒業後に絵の世界は目指さなかったんですか。

ポンチセ
日本画を専攻していたこともあるのですが、卒業後に日本画で食べていける人はほとんどいないんです。同級生も画家の先生のところにつくか、提灯の絵師になるかくらいで。社会のことを何も知らないままでいるのもな、という気持ちもあり、それで広告の制作会社に入りました。そのときはデザイナー志望だったのですが、企画なら空きがあるということで、ディレクターとして採用していただいて。

そこでの仕事はどうでしたか。

ポンチセ
初めてのことばかりだったのですが、やってみると意外と向いていたのかな?すごく楽しんでできたんですよね。制作全体を俯瞰して管理したりプランニングをしたりしていたのですが、制作物はこうやって出来上がっていくんだ!という発見がたくさんあって、そのときは夢中で仕事に打ち込んでいました。

その後、再び絵を描き始める転機があったんですか。

ポンチセ
5、6年ほど勤めたのちに結婚をしたんですけども、そこでやりきった感が出てきちゃって。環境が変わると続けづらいというような天井が見えてきたこともあったので、他に何かできることはないかと考えていたんです。そのタイミングで夫から絵を描けばいいのにと言われて、そういえば描けたねって(笑)。

美しく年季の入ったパレットはホルベインのホーロー製パレット。中学生の頃に父親に買ってもらい、当時はその価格の重みと物としての重量に手が震えたそう。

そういった経緯でイラストレーターになられたんですね。

ポンチセ
そうなんです。制作会社に勤めていたこともあって出版関係の繋がりがたくさんあったので、自分で売り込みに行って仕事をいただいていました。それから4、5年ほどイラストレーターとしていろいろな仕事をさせていただいたのですが、震災があり、当時は東京にいたのですが、いろいろな不安が出てきたので夫の地元である京都に引越してきました。

これまでの経験がひとつに

作家として活動を始められたきっかけを教えてください。

ポンチセ
東京から離れるときにお仕事の面での不安感があって、依頼を受けて絵を描くだけでなくて自分で販売ルートを持てたらいいなと思っていたんです。ちょうどそれくらいのときに知り合いのイラストレーターさんを通してminneの存在を知り、これなら自分も何かできるかも!という軽い気持ちで作家活動をスタートしました。

活動当初のことで印象に残っていることはありますか。

ポンチセ
本当に趣味の延長線上という感じで始めたので、最初は「お気に入り」のハートが付くだけでも喜んでいました。そこから1週間に1点が売れるくらいになり、そのたびに「郵便局に行かなきゃ!」とはしゃいでいました(笑)。でもそれがとても面白かったのを覚えています。それと、自分の描きたいものを描けるというのはイラストレーターの仕事ではあまりなかったのでそれもすごく嬉しかったですね。

イラストの方も進み、フルーツのような絵柄が見えてきました。

minneで初めて販売したものは?

ポンチセ
シロツメクサのミニカードです。ミニカードは名刺サイズなのでつくるハードルが低くて、そこから毎週新作を出しているとあっという間に20種類ほどに。イラストが印刷できるものであれば何でもよかったので、ハンカチ、マスキングテープとラインナップを増やしていきました。

一筆箋にも使える「シロツメクサ」のミニカード

最初のミニカードは自宅で印刷を?

ポンチセ
一度も自宅で印刷はしていなくて、基本的に業者に発注していました。DTPの知識が学生時代に既にあったのと版下(印刷する時の製版を行うための元になる原稿)までは自分でつくれたというのは大きかったですね。どういった順序を踏めば自分の思い描いたものをグッズにできるのかというところは前職での経験がとても活かされました。

すごい。過去の経験が全部活かされているんですね。

透明水彩の魅力



作品を制作する上でのこだわりを教えてください。

ポンチセ
作品の元になるイラストでいうと、透明水彩の絵の具は譲れないもののひとつです。油絵具やアクリル絵の具は色を塗り重ねていくと下の色が隠れてしまうのですが、水彩絵の具は下の色をベースに色を重ねることで深みを出していきます。自然のものを繊細に表現できる魅力があるのですが、一番下に何色をおくかによって絵の完成度が変わってくるので、普段から植物や人の顔をみるときにも、「一番下には何色がいいのだろう」と考えています。

卓上の引き出しにはたくさんの透明水彩の絵の具が。

ポンチセ
ハンカチやスカーフといった布ものの作品などでは、折りたたまれたコンパクトなときと開いたときの絵柄の配置も意識しています。他にも、同じモチーフを別のアイテムに横展開することがあるのですが、アイテムによってデザインが不自然にならないよう、一枚絵としてではなく単体として絵を描くようにしていますね。このあたりは、作品制作をするようになってから考えるようになった部分です。

作家活動の中での変化はありますか?

ポンチセ
そうですね。以前は自分の好きなものを描いているという感じだったのですが、最近ではよくレビューやリクエストをいただくようになり、その声に応えるかたちで作品制作をすることが増えてきました。植物にとても詳しい方から珍しい植物のリクエストをいただくこともあり、そういったときには、その植物について調べ、構図やシチュエーションなどが不自然になっていないか注意しながら描くようにしています。せっかくのリクエストでがっかりさせてしまうのは嫌ですからね。

淡い黄色を下地に重ねた色は赤。ほんのりと色づいてきました。

夫婦でブランドを育てる

2020年の6月には実店舗をオープンされています。

ポンチセ
はい。本当にタイミングがよかったというか、追い風に乗せていただくようにオープンすることができました。でも実は、いつかお店をもつぞというようなモチベーションでやってきたわけではなくて、作品の量が多いので在庫を置く場所が必要だったんです。それで倉庫としての物件を探している中で、ここなら半分をお店にできるかも?という物件に出会い、お店をスタートしました。

夫婦でつくりあげたギャラリーショップの店内の様子。居抜き状態から床を敷き、ラックを立てて、すこしずつ今のかたちにしていったそう。


店内には限定商品も含めて、ポンチセさんの作品がずらり。

旦那さんの協力も大きかったのだとか。

ポンチセ
それは大きかったですね。ポンチセを法人化するときに、夫は前の仕事をやめて力を貸してくれました。今は絵以外の発送作業やイベント出店は夫が対応してくれていて本当に助かっています。最近では、イベントでもわたしなんかよりも上手に販売してくれていますよ。

記念にと、ポンチセを二人三脚で支えるおふたりを撮影させていただきました。

ご夫婦で「ポンチセ」のブランドを成長させられていて素敵です。実店舗をもつことで気づきなどはありましたか。

ポンチセ
リアルな場でいただく声は励みになりますし、新しい作品のアイデアにつながることもたくさんありますね。店舗にきてくださった方と作品のことで盛り上がったり、ハンカチをお弁当包みやスカーフとして使っているという方や日付入りスタンプを梅酒のラベルシールとして使われている方がいたり、自分では考えていなかった使い方をされている話を聞くのはとても面白いですし、すぐにディスプレイや作品紹介にも反映させるようにしています。

背中を押せるような作品を


作家として活動される中でどんな瞬間が一番嬉しいですか。

ポンチセ
作品を購入してくださったお客さまから、レビューなどで「その作品を買ってよかった」と感想をいただくときはやっぱり嬉しいですね。あと、購入後の作品にまつわるエピソードをメッセージで教えてくださることもあるのですが、ポンチセのレターセットでラブレターを書いて告白し、無事お付き合いされたのちにご結婚までされた方がいて。この時点でとても嬉しいことなのですが、その結婚式の来賓の方にポンチセのミニカードを使ってメッセージを書いてもらうということで、今度はミニカードを買ってくださったんです。このことを知ったときは、“よかったねよかったね!”とものすごく嬉しい気持ちになりました。人生の大切な場面に関われたなんて光栄ですし、わたしの描く絵がちからになれたのだとしたらこんな嬉しいことはないです。

それは嬉しい。素敵なエピソードですね。ポンチセさんが作品を通して伝えたいことはなんですか。

ポンチセ
漠然としているのですが、ポジティブな気持ちになれるような作品にしたいなとはいつも意識しています。ラブレターの話もそうですが、「辛いことがあった日にかばんを開けたらポンチセのハンカチがあって、今日も頑張ろうと思えた」とか「ポンチセさんのハンカチを持って受験に挑みました」とか。そういうコメントをいただくと読んでいて泣きそうになるんですよね。なので、作品をつくるときにはそういった誰かの日常を応援できるようなデザインにしようと心がけています。

さらに色を塗り重ねていき仕上がったのは、色鮮やかな姫林檎のイラストでした。

最後に、今後つくってみたいものはありますか。

ポンチセ
これまで、マスキングテープやハンカチなどの比較的小さなものにイラストをのせることが多かったので、いつか大きな布にプリントをしたり、壁一面をデザインするようなことをやってみたいと思っています。業者選びが本当に大変なのでいつになるかは未定ですが、タペストリーやテーブルクロスなどから挑戦していければと考えています。興味のある方は楽しみにしてお待ちいただけると嬉しいです。

取材・文 / 川西幸太  撮影 / 真田英幸

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